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現実エスケープ

第19章 現実アプローチ




「俺の条件、最初からアズサさんしか該当しないの分かってて言ってますよね?」

​「いっぱい居そうだけど? 理想低いんじゃない?
 まあ、拾うか拾わないかは、結城くん次第」

そう言って、私はまた前を向いてベンチにうつ伏せたまま顎を腕に乗せた。
太陽の光が強いせいで顔が熱い。絶対に、それだけのせい。

​「そろそろ戻らないといけないんじゃないですか?」

​不意に、結城くんが立ち上がる気配がした。

「私、煙草1本吸ってから戻る」
「じゃあ、俺先に戻ります」

​私が煙草に火を付けると、結城くんは社内に戻っていく。

彼の背中を見送っていると、屋上のドアをあけたところで、あの日みたいに急にこっちを振り向いた。

​「アズサさん!
 俺の拾いもの、絶対に他の人に譲りませんからね!」

​大きく手を振って、結城くんは屋上のドアを閉めた。

​「ホント、馬鹿だな、結城君は」

​今のは独り言じゃない。結城くんに投げ掛けた言葉だ。
屋上のドアは閉まった。絶対、彼には聞こえていない。

​でも。
あの日とは違って、私の口元には、きっと小さな笑みが浮かんでいた。

いつか聞いてくれればいい、なんて思っていた言葉。
別に、今日じゃなくても、いつか伝わればいい。

​だって、私の現実には、国宝級のイケメンやドバイの石油王なんて落ちてないけれど。
私のボヤきを、誰よりも優しく拾ってくれる、最高のバカが落ちているのだから。

お墓のことは考えてないけれど、週末の予定くらいは合わせてやろうと思う。

​-end-

 
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