第18章 本日は世界を求める(ただし、荷物は洗剤で)
「あーあ、どっかに『私のプライベートな散策コースに、ライター片手にひょっこり現れて予定を狂わせるような、察しの良すぎる同期が一人も存在しない、平穏な世界』、落ちてないかなあ」
月曜日の昼休み。
屋上の手すりに背中を預け、私は重い溜息を吐き出した。
「今日はイケメンじゃなくて世界求めてるなんて大規模ですね。
でも、あの状況でアズサさんを放置してたら、今頃駅前の交番に『火を貸してくれるイタリア人知りませんか』って相談しに行ってたんじゃないかと心配になりまして」
案の定、横から火のついた煙草の香りが漂ってくる。
いつもの、シワ一つない白シャツに紺のネクタイ。
昨日の姿がまるで幻だったかのように、結城くんは「いつもの同僚」の顔をしてそこにいた。
「行くわけないでしょ。
大体、あんたのせいで昨日の散策、台無しになったんだけど」
「台無しって。
あの後ピザ食って、ドラッグストアで特売の洗剤買って、
そのまま真っ直ぐ帰って行っちゃったじゃないですか。
あそこからどう散策に繋げるつもりだったんですか」
「あそこからが本番だったの。
駅の反対側の、本屋さん回ったり。
あんたが『かつての庭』とか言って連れ回すから、荷物が重くなって疲れたの」
「洗剤の重さで、ですか?」
「そう。文句ある?」
私が睨むと、結城くんは肩を揺らしてクスクスと笑った。
その、全部見透かしたような笑い方が本当に癪に障る。