第17章 ピザ職人の資格というのがあるらしい
「待ってないけど、ライター忘れただけ。暇だから駅前散策。
それより、あんたこそ、今日はお休みじゃないの?」
「休みですよ。
だからこうして、アズサさんの『落とし物』になりにきたんです」
結城くんは私の横に並び、ガラス越しに駅前の雑踏を眺めながら言った。
「どうです?
イタリア人じゃないですけど、ジャストタイミングで火を差し出すサービス。
今日の俺、プレミアム仕様の優しさ、溢れ出てませんか?」
「タイミングだけは、認める。
でも『瞳に乾杯』が足りない。マイナス五十点」
私がいつものように毒を吐くと、結城くんは楽しそうにクスクスと笑った。
「厳しいなあ。
じゃあ、その足りない点数は、ピザの後のコーヒーで。
ツケにしといてください」
「……ピザ?なんで食べたいの分かったの?」
「イタリアとか言ってますし。
ちょうど行こうとしたところ、ピザ屋です。
イタリア人イケメンの代わりに、この、アズサさんの食べたいもの当てた同期がエスコートしますよ。
どうします? 拾います? この俺」
結城くんは悪戯っぽく、でもどこか試すような目で私を見てくる。
静かな外の喫煙所。
屋上の喧騒がないせいで、彼との距離がいつもより少しだけ、近すぎる気がした。
「……お腹、空いてるし。
拾ってあげてもいいけど。割り勘だからね」
「またそうやって俺とのデート(仮)をランチに流すんですね」
彼は「相変わらずガード固いなあ」と笑いながらも、私の歩調に合わせて喫煙所を出る。
……本当に、馬鹿だな、結城くんは。
でも、ライター一つで私を見つけ出して、さらっと日常に割り込んでくるその強引さが、ほんの少しだけ嫌いじゃないなんて。
やっぱり、口が裂けても、そんなこと言ってあげないけど。
-end-