第17章 ピザ職人の資格というのがあるらしい
休日の午後。地元の駅前にある、ガラスで囲まれた狭い喫煙所。
平日の殺伐とした空気とは違い、ここは驚くほど静かだった。
私は一人、やることもなく、咥えたタバコの先に火をつけようとして――自分のミスに気づいた。
「あ……忘れた」
カバンをひっくり返しても、ライターが出てこない。
出てくるのはいつの日か分からないレシートと空の煙草の箱が数個。
昨日の夜、上着のポケットに入れっぱなしにしたんだっけ。
口に咥えたフィルターの感触が、手持ち無沙汰を強調する。
誰もいない静かな空間に、私は溜息をつくしかなかった。
「アズサさん、今日はどんなイケメンお探しですか?」
聞き慣れた、少し意地悪で楽しそうな声。
驚いて顔を上げると、ガラスの向こう側に私服姿の結城くんが立っていた。
「『私がライターを忘れた瞬間に、無言で火を差し出して「君の瞳に乾杯」とか言っちゃう、キザなイタリア人イケメン』探してたところ」
彼は手に持ったライターをカチリと鳴らし、そのまま私のタバコの先に近づけてくる。
「日本人ですけど、察しの良すぎる同期ならここに落ちてましたよ。
……火、いります?」
私は少しだけ動揺しながらも、差し出された火を借りた。
紫煙が静かに、二人の間に広がる。
「何よ、なんでここにいんのよ」
「昼食べようと思って。
行きたいお店、ここの近くなんです。
そしたら、静かな喫煙所で一人、
咥えタバコで虚空を見つめてるアズサさんを見つけたんで。
もしかして、俺以外の誰かを待ってました?」
結城くんはそう言って、自分もタバコを咥えて火をつけた。
職場でのワイシャツ姿とは違う、ラフな服装に少し崩した髪型。
いつもより低い彼の声が、静かな喫煙所に妙に響く。