第13章 猟師さん、狼がここにいます。
「あー、飲んだ飲んだ。お腹いっぱい」
23時前の駅ビル。
居酒屋を出た私は、夜風を浴びながら大きく伸びをした。
ビール3杯に焼き鳥。今週のストレスは完全にアルコールに溶けて消えた。
「アズサさん、足元フラフラですよ。ほら、バッグ持ちますから」
横から、聞き慣れた呆れたような声。
結城くんが、私の肩からずり落ちそうになっていたビジネスバッグにサッと手を伸ばし、自分の肩にひょいとかけた。
「ありがと。で、今度は何?
改札に向かう間もずっとニヤニヤして。プレミアム仕様の笑顔の押し売りは、居酒屋の中で『資産価値ゼロ』って鑑定したはずだけど?」
私は冷めた目で、自分のバッグを持ったまま隣を歩く同期を見る。
「ひどいなあ。
いやね、俺、さっきアズサさんが言ってた妄想の条件、
ちゃんと最後まで守り抜いたなーと思って」
結城くんは自分のポケットに手を突っ込みながら、ニヤリと笑った。
「条件? 何の話?」
「『私の仕事終わりの愚痴を延々と聞いてくれる人』ですよ。
俺、さっきの2時間、アズサさんの部長への愚痴を1ミリも否定せずに、
全肯定の笑顔でフンフン聞いてたじゃないですか。
ほら、今の俺、めちゃくちゃ優しくないですか?」
楽しそうに、自分に都合のいい手柄をアピールしてくる。
相変わらず、私の妄想の条件を後から回収する執念だけは凄まじい。
「愚痴を聞くのはただの相槌で、エスコートとは言いません。
あと、結局きっちり1円単位まで割り勘だったしね。
はい、総合評価はやっぱり落第点です」
私が一蹴すると、結城くんは自動改札の前で足を止め、大げさに肩を落とした。