第10章 たまには指名してあげる
「ちょうどよかった。
拾ってあげたんだから、その頭の良さと要領の良さを活かして。
この資料の片付け、午後イチから手伝って」
「……え」
額にメモを貼られたまま、結城くんがマヌケな声を出す。
「今やってるプロジェクトの、過去五年分のファイル整理。
私一人じゃ日が暮れそうだから、要領のいい結城くんが手伝ってくれたら助かるなー」
にっこりと、私はこれ以上ないほどの営業スマイルを浮かべて見せた。
「……え、あの、俺へのプレミアムな愛は?」
「あるわけないでしょ。
あるのは、午後からの膨大な単純作業だけ」
「流した!!!
俺の存在を指名しておきながら、ただの便利な労働力として流した!!!」
結城くんが「騙された! 美人局だ!」と大げさに頭を抱えて叫んでいる。
「あーあ。
俺のタイプのアズサさんは、いつになったら
俺の愛を拾ってくれるのかなあ」
そうぼやきながらも、結城くんは額のメモを剥がし、ポケットにしまう。
そして、携帯灰皿にタバコを押し込んだ。
文句を言いつつも、午後から絶対に私の手伝いをしてくれるのだ、この男は。
本当に、馬鹿だな。
背中越しに響く結城くんの嘆き声を聞きながら、小さく息を吐いた。
流石に「頭はいいけど」なんて、普段は絶対に言わない本音を混ぜちゃったのはやりすぎだったかも。
口が裂けても、そんなこと言ってあげないけど。
-end-