第10章 たまには指名してあげる
「あーあ、どっかに『背は高くないし、長男だし、頭はいいけど、性格キツいし、顔は整ってるけど私のタイプじゃない結城くん』、落ちてないかなあ」
ぽかぽかとした屋上。
私はいつものようにベンチに寝転がり、これ以上ないほどピンポイントな「理想の落とし物」を口にした。
「はい!! 落ちてますよ!! ここにバッチリ落ちてます!!」
ガタッ、と大きな音を立てて、私のすぐ横で結城くんが飛び上がった。
いつもは物憂げにタバコを吸っている男が、今日は嬉しさを隠しきれないといった様子で、キラキラした目で私を見下ろしている。
「あ、やっぱりいた」
「いた、じゃないですよ! 何ですか今の!
ついにアズサさんの求める条件が俺自身になりましたね!?
これ、実質俺のことが好きってことですよね!?」
結城くんはタバコを吸うのも忘れて、私の寝転がるベンチの横にしゃがみ込んだ。
素晴らしい笑顔。距離が近い。
だが、私の心臓は、そんな彼の猛攻を完璧に受け流す準備を整えていた。
「は? 何言ってるの。
あんた、自分のこと『要領がいい』って言ってたでしょ?
実際、頭の回転だけは無駄にいいし、性格はキツいし、顔は整ってるけど私のタイプじゃない。全部事実の羅列」
「いやいや!
事実の羅列にしても、名前まで呼んでるじゃないですか!
いやー、ついにアズサさんが俺を拾ってくれる気になったかー。
どうします? 今から婚姻届のダウンロードでもします?」
ニヤニヤと調子に乗る結城くんに、私は体を起こすと、ポケットから一枚のメモを取り出して彼の額にペタッと貼り付けた。