第9章 ガラス張りの喫煙所
「うわ、俺の言ったこと一言一句全部覚えてる! 愛ですね!」
「記憶力の無駄遣い! あと愛じゃない、ただの事実の確認!」
「あはは! でもね、アズサさん。
俺にはもう一つ、屋上での大事な約束があるんですよ」
結城くんはフッと煙を吐き出すと、仕切りのガラス越しに、少しだけ真面目なトーンで言った。
「『今度から超優しくしますね』って。
だから、こうして駅の喫煙所でアズサさんが独り言言うの、
温かく見守ってたんです。
どうです? めちゃくちゃ優しくないですか、俺」
「物陰からニヤニヤしながら泳がせるのは優しさとは言わない。
ただの悪趣味! はい、ゼロ点!」
私はすまし顔で、灰皿に煙草を押し込んだ。
よし、今日も完璧に流した。
「流した! せっかく駅まで一緒に帰ろうと思って待ってたのに。
またゼロ点って言われた!」
結城くんが「厳しいなあアズサさんは!」と嘆きながら、
そそくさと自分の煙草を消している。
「あーあ。
俺のタイプのアズサさんは、いつになったら俺の優しさを拾ってくれるのかなあ」
そう言いながらも、結城くんは私に並んで歩き出す。
なんだかんだ言って、改札まで一緒に帰る気満々だ。
……本当に、バカだな。
バカだけど、私のこと観察して、
わざわざここで待っててくれたことが、ほんの少しだけ嬉しかった。
やっぱり、口が裂けても、そんなこと言ってあげないけど。絶対に教えない。
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