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現実エスケープ

第7章 落とし物回収センターは休業中


 
「どうです?
 そんな都合のいいアズサさん、どっかに落ちてませんかね?」
 
楽しそうに、でも少しだけ真剣な色を孕んだ目で私を見つめてくる。
色々言っておきながら、視線は1ミリも私から外れていない。

だが、ここで隙を見せたら負けだ。
私はすかさず、完璧なすまし顔を作って見せた。
 
「残念。
 あいにく、そんな都合のいい落とし物はここにはない!」
 
「えーっ!
 目の前に落ちてる気がするんですけど! ほら、ベンチに!」
 
「落ちてないし、私は『超優しく』なんてしてあげないから。
 条件、全然満たしてないでしょ」
 
私はフンと鼻を鳴らすと、
そのままベンチにコロンとうつ伏せに寝転がった。

よし。完璧に流した。

「流した!
  あんなにピンポイントで指名したのに、まだ流すんだ!
  ガード固すぎません!?」
 
結城くんが「せっかくの告白(仮)が!」と大げさに頭を抱えている。
 
「あーあ。
 俺のタイプのアズサさんは、
 いつになったら俺に超優しくしてくれるのかなー。
 早く拾ってくれないと、他の誰かに拾われちゃいますよー?」
 
そう言いながら、結城くんは携帯灰皿に煙草を押し込むと、「じゃ、先戻りますね」と楽しげに屋上のドアへ向かっていく。
 
……本当に、バカだ。
 
あんなこと言われて、じゃあ、拾いますね、なんて私が言うわけない。
口が裂けても、そんなこと言ってあげない。
 
-end-

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