第6章 ゴミ箱は近くにあった
「でもね、アズサさん。
俺が今言った条件、アズサさんなら結構クリアしてるんですよ」
「は?」
「背は……まあ、高めのヒール履けば俺といい勝負だし。
お金は、俺と同じ給料だからそこそこ。もちろん、長男以外だし。
頭は……まあ俺がフォローすれば問題ないし、顔は俺のタイプだし。
あとは、俺に『超優しく』してくれれば完璧なんですけど」
結城くんはそう言って、私の方を覗き込んできた。
「どうです? 今の。
めちゃくちゃアズサさんへのアピールになってません?」
いつの間にやら、私の言った条件を全部自分の都合のいいように解釈し直している。
この男のポジティブな脳内変換、本当にどうにかならないものか。
私は手元にあった、飲み終えたばかりの空のコーヒー缶を、結城くんの膝の上にポンと置いた。
「はい、お望みの超優しい人からのプレゼント」
「え、空き缶?」
「ゴミ箱まで持って行ってくれる? 優しいでしょ?」
我ながら完璧なすまし顔で、私はベンチにコロンと横になった。
「流した! 流した上に、俺をただのパシリとして使った!!」
結城くんが「俺の感動のプレゼンをゴミ処理係にされた!」と大げさに嘆いている。
「あーあ。
俺がこんなにアズサさんの理想のセリフまで覚えて、
健気にアピールしてるのに、アズサさんは全然優しくしてくれないなあ」
そう言いながらも、結城くんは文句を言いつつ空き缶を拾い上げて、ゴミ箱へと歩いていく。
なんだかんだ言って、私の頼みは絶対に断らないのだ、この男は。
本当に、馬鹿だな、結城くんは。
背中越しに響く結城くんのぼやき声を聞きながら、小さく息を吐いた。
たまには少し優しくしてやってもいいのかもしれない。
口が裂けても、そんなこと言ってあげないけど。
-end-