第5章 そう言えばゴミ出し、今日だったわ
……いかんいかん。
夜の屋上というシチュエーションに、脳がバグを起こしかけている。
私はココアを一口飲むと、フンと鼻で笑って見せた。
「悪いけど、パス。私、今日のご飯はもう決めてるから」
「えっ、何ですかそれ。
俺より優先されるディナーって。まさか誰かと約束でも?」
「コンビニの豚骨ラーメン。
家でパジャマに着替えて、YouTube見ながら食べるの。
結城くんと居酒屋で愚痴り合うより、100倍癒されるわ」
我ながら完璧な鉄壁のガード。
よし、流しきった。
だが、結城くんはガッカリするどころか、楽しそうにクスクスと笑い出した。
「あはは! 豚骨ラーメンですか。
いいですね、それ最高。じゃあ……」
結城くんは携帯灰皿にタバコを押し込むと、一歩、私との距離を詰めた。
夜風に乗って、彼の服からほんのりと、タバコと洗剤が混ざったような匂いがする。
「アズサさんの家で、一緒に豚骨ラーメン食べるってのはどうですか?
俺、アズサさんの代わりにゴミ出しするくらい優しくしますけど」
「……は!?」
「あ、今『家に入れるわけないでしょ』って顔しましたね?
流した! またそうやって流すんだ!」
私の顔を見て、結城くんは満足そうに笑う。
「冗談ですよ、冗談。
駅まで送るくらいは、タダでさせてくださいね。
……お疲れ様でした、アズサさん」
そう言って、彼は先に屋上のドアへと歩き出す。
その背中を見送りながら、私は慌ててココアで口元を隠した。
……バカ。本当にバカだ。
「ゴミ出しする」なんて生活感あふれる言葉で、私の家に入る口実を作ろうとするなんて。
冗談だって分かっているのに、一瞬でも「それも悪くないかも」と思ってしまった自分が、本当に癪に障る。
やっぱり、口が裂けても、そんなこと言ってあげないけど。
-end-