第5章 そう言えばゴミ出し、今日だったわ
「あーあ、どっかに『身長180センチ以上、顔は国宝級、私を世界一甘やかすためだけに生きてて、かつ夜景の見える超高級レストランをスマートに予約してくれるイケメン』、落ちてないかなあ」
残業を終えた19時半。
すっかり暗くなった屋上のフェンスに寄りかかりながら、
私は夜風に吹かれて妄想を垂れ流す。
特等席のベンチが少し冷たかったので仕方ない。
「アズサさん。夜景の見えるレストランは無理ですけど、
夜景の見える屋上なら今ここに提供されてますよ?」
カチッ、とライターの音がして、暗闇に小さなオレンジ色の火が灯る。
いつものように、私の隣には結城くんが立っていた。
「……タバコの煙つきの夜景なんて、ロマンチックの欠片もないでしょ」
「ひどいなあ。ほら、せめて温かいものでもどうぞ」
結城くんが差し出してきたのは、自販機の缶のココアだった。
受け取ると、冷えた指先にじんわりと温かさが広がる。
「ありがと。で、今日は何?
プレミアム仕様の優しさ、夜間割増料金とか請求されるわけ?」
「お、よく分かってますね。今夜のツケはですね……」
結城くんはタバコを指に挟んだまま、フェンスに背を預け、私の方を向いた。
街の明かりを背負った彼の顔が、静かな色気を湛えた横顔に見える。
「この後、俺と飯行って、今日頑張ったことをお互い褒め合う権利で」
「……」
「どうです? 今、めちゃくちゃ優しくないですか、俺。
残業で疲れたアズサさんを癒してあげようっていう、同期の鑑ですよ」
いつもの調子。いつもの冗談。
でも、暗闇のせいか、彼の声がいつもより少し低く、耳の奥に心地よく響く。