第4章 優しさの押し売り
わざと無関心を装って、私はスマホをいじりだす。
さてと、明日は晴れるかなーっと。
晴れ、知ってる、ついさっき調べたとこだから。
「あのね、アズサさん」
結城くんは煙を吐き出すと、少しトーンを落として言った。
「勘違いしないでほしいんですけど」
「……何を?」
「俺、あの時、その女の子に『君、アズサさんと同じくらい頑張り屋さんだね。
でも無理しすぎちゃダメだよ』って言ってただけですからね」
「は!?」
思わず起き上がった。
そこで私の名前を出すなよ、モテてる自覚ねーのか。
噂になったらどうするんだよ。
「な、何それ! なんでそこで私の名前出すの!?」
「だって、俺の中の『頑張り屋さんの基準』ってアズサさんなんで。
……で、その後にこう付け足しておきました」
結城くんは吸い殻を携帯灰皿に押し込むと、
しゃがみ込んで私の顔を覗き込んできた。
その距離、わずか数十センチ。
「『でも、俺が本当に心配して、本気で優しくしたいのは、
アズサさんだけなんですけどね』って」
な、何だこの男は。
さらっと他人にそんなことを言うなんて、頭がおかしいんじゃないのか。
「……バカじゃないの。私まで噂の社員様リストの仲間入りじゃん」
私は顔を隠すように、再びベンチにうつ伏せになった。
「何ですかそれ?
俺の優しさはプレミアム仕様で、
アズサさん専用だ、って言いたかっただけなんですけど。
……どうです? 今、めちゃくちゃ優しくないですか、俺」
背中越しに、結城くんの得意げな笑い声が聞こえる。
「……流石にその行動260円の価値もないわ。鏡、見てこいよ。
返品、大破格のゼロ円。」
私は顔を伏せたまま、精一杯の毒舌を吐き出した。
「えー! ゼロ円!? 厳しいなあアズサさんは!」
……ったく、本当に馬鹿だ。
でも、彼が他の誰よりも私を「特別」にしているという事実に、ほんの少しだけ、安心感を覚えている自分もいて。
やっぱり、口が裂けても、そんなこと言ってあげないけど。
それより、まずは、早急にリストから除外されることを祈るしかない。
-end-