第1章 序章
「ま、そこまで動けるなら上等だ」
先輩は見下ろして、私も視線に釣られる。
異変に気付いたのか、先ほど気絶させた奴らの仲間らしき人数が集まってきた。
今回の仕事は、砂場地区で力をつけてきている、とある裏組織の調査だ。
調査とは建前で、言うなれば統制。
力は大きくなればなるほど、その周りの組織や環境に良くも悪くも大きな影響を与える。
そんな裏世界の力のバランス、均衡が崩れでもしたら、戦争レベルの大抗争が起きかねない。
まさに半年ほど前。
風鈴がまだ統一される前の混沌とした歪な社会が再現される。
(風鈴を立ち去った後の先輩は、まさに裏世界を陰で操る立役者。情報屋でもあり、その影響力はただならない)
私はそんな人にスカウトされて、色々あって、今は先輩の手足として、ここにいる。
実践経験を積みながら戦っては強さを求め、陰で生きることを選んだ。
目的のためなら、思い出だろうと故郷だろうと友情だろうと……
(……今の私は、もう“あの時”の私じゃないし、もう戻れない)
先輩は手のひらをヒラヒラさせて、私から離れていく。
「じゃあ俺は配置につくから、気ィ抜くなよ〜」
(いや誰のせいで抜けたと思ったんですか?)
私はそんな能天気な背中を眺めながら、蹴りたい衝動を抑える。
仕事中に呆けているのはどっちだって話だ。
「あ、そうそう。言い忘れてたぜ」
「?」
え?何か必要事項の伝達漏れが…?
先輩はまだ声が届く距離にいて、振り返って私に言う。
「この件、もしお前だけでうまくできたら、今夜“は”お前の好きにしていいぜ」
え?今夜“は”って……あ
私は記憶を巡らせてしまい、今思い出すべきじゃない昨夜の失態が脳裏に浮かぶ。
カァァァッ
ニタァ
私の顔が赤くなるのと比例するように、先輩のよからぬ悪魔的笑顔が浮かぶ。
「面つけていても真っ赤になってんのが分かるぜ。本当にいじりがいがあるぜお前。天才的に」
「戦い以外のそんな才能は願い下げです」
平静を保とうにも、昨夜のことが頭から離れず、理性を邪魔してきて厄介だ。
さっきから心臓の音がうるさくて、調子が狂う。
(た、確かに、昨日、誘ったのは…私だけど……)
言いたいことは山ほどあるのに、うまく言葉が出ない。