第1章 序章
(にしても、危なかった……)
顔はギリ見られてない。見られていたとしても、頭を打ったから覚えていないだろう。
いやいや、元を正せば……
パチパチ
「!」
「お〜かっこいい〜。切り替え早ェ〜」
先輩は観客を装って能天気に、演者の私に拍手を送る。
イラァッ
(この人ァッ〜…!)
私は心の中で握り拳をワナワナ振るわせる。
(表面上は師弟関係だから、こちらから手を出すことはまず無いが)
首筋には未だに先輩の余韻が残っていて、思い出すとまた赤面してしまう。
相変わらず、人の神経を逆撫でするのがお上手な人だ。
もし相手が先輩じゃなかったら、今敵にやった技をそのまま披露したいくらいだ。
「フッ。前俺が言ったこと、ちゃんと実践できてるじゃねェか」
「!」
でも、いつも私を揶揄ってばかりの先輩は、いつも私の様子を面白がって観客ぶっているわけじゃない。
ちゃんと約束通り、私に戦い方を指導する“師匠”としても演じてくれる。
『どんな状況だろうと、冷静さは欠くな』
先輩と手合わせする時に、何度か言われたことだ。
特に私のように、力の弱い人間には、弱い者なりの戦い方がある。
物理的な強さより、精神的な強さだ。
どんなに腕力やスピードが相手より劣ったとしても、心を折られない限りは、必ず勝機はやってくる。
(しかし言い方を変えれば、物理的な力だけでは絶対に敵わない。少しでも隙を見せて、そこを突かれれば1発KOだ)
だから私の戦法は、一瞬でも終わらせるべき短期戦に持ち込むこと。
戦いが長引けば長引くほど、身元がバレるリスクも増えるし、戦い方を見破られれ、最悪の場合、女だと気付かれる。
『お前はどんな時も調子を崩すなよ』
そう言いながら先輩は、戦いの真っ最中でも私の調子を崩してくるようなちょっかいを出してくる。
私を揶揄うようにキスして動揺させたのも、本人にとっては指導らしいが……
(いやいや絶対違う。ほとんどこのタチの悪い先輩の趣味だ)
そしてそんな意地の悪い先輩に、毎回ハマってしまう私も大概だ。
それで毎回つくづく思う。
(何で私、こんな人好きになっちゃったんだろう……)
自分の見る目の無さに、本当に呆れるわ……
心の中で見えないため息をこぼす。