第1章 序章
ようやく兄は口を開く。
「……最近、町全体が物騒になってきている。この街を離れる人も増えているくらいだ。そんな中でもお前は、この町が怖いとか、思ったりしないか?」
私は少し考えてから、ふっと笑顔を見せて質問に答えた。
「……全然怖くないよ。兄さんや、他の皆がいるところなら」
私、思うんだ。
どんなに辛いことがあっても、自分を見失いそうになったとしても。
帰る場所や大切な人がいる限り、人は何度でも立ち上がれるって。
自分の力だけじゃなく、誰かの手を借りて、そしていつか自分もまたその誰かに手を貸すしていく。
そういう繰り返しが、生きていくことなんだと思う。
もちろん、ずっと皆一緒にいられるわけじゃない。
自分の将来とかやりたいことがあれば、この街を離れることだってある。
でも、お互いの心の内に居場所があり続ける限り、お互いを忘れずに生き続けることができるんだと思う。
(兄さんの言う通り、誰がどうしたいかはその人の自由だ。でも、それは見捨てることじゃない。生きている限り、きっとまたどこかで会える)
顔は覚えていないけど、父さんと母さんは、星になって私たち兄弟をずっと見守ってくれていると、今でも信じている。
私、決めたんだ。
もう泣かないくらい、強くなるって。
自分の境遇を言い訳に、勝手に悲しんだりはもうしない。
だって今はこんなにも、色んな縁に恵まれているんだ。
これ以上、望むことなんてない。
いや、望むとしたら、“この幸せを守るための強さ”だ。
心も身体も、男の人に負けないくらい、強くなりたい。
兄さんの背中を見るんじゃなくて、預けられるくらい。
この町に居続けられるくらい、強くなるんだ。
私はその決意を口で表す。
「どんなことがあっても、私はこの町も、この町にいる皆のことが好きだから。そのためなら何でもなれるし、何だって頑張れるから。だから……」
私のことを、ずっと……
「零」
「!」
ハッとなって、我に返る。
見下ろすと、砂場地区の廃棄工場の内部が広がっている。
2階の見下ろし台から、人気のない闇を眺めていた。
深夜零時。子供ならもう寝ている時間に、私は遠い暗闇の町に居た。
(あ、そうだ。私……)
もう、まこち町には、居ないんだ……