第1章 序章
私は気を引き締め直して、見張りを続ける。
しかし、頭の中には未だに、かつての思い出が残っている。
まこち町から離れて、もう半年。
本当だったら、中3になっている頃か。
(“あの事件”から、随分状況が変わったな……)
色んな裏組織に追われる身となった私は、“ある人物”に再会して、今は“その人”の世話になっている。
今の身分や戸籍、名前や住所も、全て偽りのもの。
つつじ零はもうこの世に存在しない。
今は、全くの別人を演じ、“この人”の付き人として、闇夜の街を踊り歩いている。
私は身バレ防止のために装着している面をずらし、正しく付け直した。
「どーしたボケーッとして。いつものような覇気がねェな?」
ちょうど今私の真隣にいる“その人”は、ひょうきんな口調で顔を覗き込む。
偽名ではなく、本当の名前で呼んでくれる人。
「……すみません。任務中なのに…次から気をつけます“棪堂先輩”」
私が目を合わせた“その人”の名前は、棪堂哉真斗。
元風鈴生で梅宮さんと並ぶくらいの実力を持ち、伝説と謳われる人物だ。
癖っ毛のある髪で、恵まれた体格をしていて、喧嘩で負けるところなんて想像つかないくらい強い。
何でそんな人と行動を共にしているのか。話せば長くなる。
「前に居た町の奴らでも、懐かしんでいたか?」
ピクッ
図星を突かれて、瞼が痙攣したように動く。
「……もう、未練なんて…ないですよ」
自分でもおかしなくらいに掠れた声が出た。
先輩はそんな私の嘘を見破っていても、「ふ〜ん」と言うだけで、それ以上、追及しなかった。
そんな横顔を私は見る度に、変わった人だなと思う。
“初めて出会った時”から感じていた。
掴みどころもなく、何を考えているか読めやしない。
1年前、私が風鈴の3年生に悪がらみされている時も、急に入ってきて、生意気そうな1年坊をこの人は演じた。
『コイツ、俺のツレなんでね〜。人の女、勝手に口説くの辞めてもらえます?』
『!?』
白馬の王子様とは全くかけ離れており、むしろ、人を騙す悪魔の方が似合っている。
いつも気まぐれのように、のらりくらりと気分次第で動く人。
でも、なぜそんな気分屋の人が、私みたいな奴を“弟子”にすることにしたのか。
今でもよく分からない。