第1章 序章
耳を澄ませると、奥の台所から皆の声が聞こえる。
もうすぐ夕食時だから、お腹を空かせた皆の元気な足音もする。
「梅兄ィお帰り〜!」
「コロッケ人数分買ってきた〜?」
「おうよ!今日は何と言っても零の卒業式だ!今夜は零のリクエストで肉屋のコロッケで、入学式はまた豪勢にしような〜!」
「じゃあピザがいい〜!耳までチーズが入っているやつ!」
「それもいいなぁ。じゃあ後で零に聞いてみような!皆でご飯を分け合える分、幸せな気持ちは増えるからな〜!」
全て丸聞こえで、私は思わず吹き出して笑ってしまう。
(ピザでも何でも、皆で食べれるなら何でもいいよって、ちゃんと言っておこ)
この施設に入って、そんな和の中で、今まで美味しいご飯を食べてきた。
それまではあらゆる場所を彷徨って、ご飯の味なんてどうでも良かった。
お水でもたんぽぽでも、何でもお腹に溜め込んだ。生きるために。
そんな苦労を共にした兄から、聞かれた。
「お前、この街が好きか?」
え?
まさに藪から棒みたいな質問で、私はフクロウみたいに首を傾げつつ、質問に答える。
「う、うん?好きだよ。兄ちゃんのことはもちろん、一兄やこの施設の皆も優しいし。街の人も皆大好きだよ」
「……そうか」
すると兄はまた考え込んだ。
まるで何を言おうか悩んでいるような苦い顔色だ。
しばらく沈黙が続き、私も徐々にムズムズする。
(あぁ。いつも一兄が話を広げたり、空気を和ませてくれていたからなぁ…)
それくらい2人きりで話すのは久々だった。
いくら実の兄弟でも、私達は孤児だから、普通の感覚とは違うところもあった。
兄であると同時に、親代わりでもあったから、それくらい私にとって眩しい存在でもあり、気軽に話しかけていい存在じゃ無い気もしていた。
だからなのか。兄とは物心ついた頃から一緒だったのに、2人になると、なぜか緊張する。