第1章 序章
飲みかけの缶を持ちながら、確固たる持論のようにして、私に説う。
「男っていうのは、案外単純で、時には素直になれない。だから意地悪なことを口走るんだ。でも、お前に興味があったり、「もっと俺のことを知ってほしい」と思える相手に、どんな言葉だろうと手段を使おうと、見てほしいと必死になっちまう。結構男って、そうやってダサい所もあんのよ」
残ったコーラを飲み切り、ちょうどよく話が切られた。
いつも以上に饒舌な一兄に、私は何となく思った。
「これ多分、一兄の方が確信犯だな」と。
でも言うと面倒臭くなりそうだから、黙っていた。
(でも、好きな相手、か……)
施設に着くまでの帰り道、私は物思いに耽った。
今思えば、今まで生きるのに必死で、そんな気持ちを持つ余裕なんて無かったと思う。
自分勝手な大人達の都合に振り回されるのが嫌で、兄と一緒にあの家から出た日から。
色んな街を回って、時には公園で寝ることもあった。
その度、兄の目の下のクマが色濃くなっていって、私が眠っている間にずっと起きていたのは分かっていた。
兄が小柄なのは、私を守ってきた分、自分に十分な栄養が行き届いていないかもしれない。
最近、そんな気がして、何だか申し訳ない。
隣り合わせに並ぶと、あなたの身長差はさほど無いし。
(私は、口数は少ないけど、そうやって私を守ってくれた兄のことは好きだし、元気で明るい一兄のことも好きだ)
一兄が言っていた“好き”とは違うかもしれないけど。
でも私は、それだけでもう満足というか。十分過ぎるんだ。
この時は、そう思っていた……
その内、施設に着いて、一兄に続いて、靴を脱ごうとしたら、楼兄が「なあ」と声をかけて止めた。
「?」
「ちょっと話がある。いいか?」
え?
私は目を丸くした。
だって、寡黙な兄が自ら改まって話をすることなんて滅多になかったから。
いや、もしかすると初めてかもしれない。
兄はすでに玄関口へ上がっている一兄に、目配せみたいなことをした。
一兄はそれを汲んだのか、足早になってその場を立ち去る。
「じゃあ俺、夕食当番だから先行ってるぜ。兄弟のスキンシップは大事だぞ〜」
そして兄と2人きりになり、なぜかいたたまれない空気になる。