第2章 煙草の味を覚えた日
はっきり言って五月蠅かった。
これから自分の手で何をするのか。その上からの命令と、それを実行することにより生まれる罪悪感とに押しつぶされそうな状況で、なぜそれだけ騒げるのか。
レノは不満顔を目ざとく見つけた。自身の額を指さす。
「オマエ欲求不満か? 皺寄ってんぞ、っと」
特徴的な語尾の後に続く、含みのある笑い声。
決して気の弱いアグレイスではない。常時なら手を振り上げるところだが、今はそんな気分になれなかった。
「なんだ、なんだ~? 反応くらいしろよ、つまんねえな」
何も言わないアグレイスをさらに煽るような言葉を浴びせるが、やがて飽きたのか、ルード相手にまたつまらない話を始めた。
ターゲットから外れたアグレイスは、ゆっくりと息を吐く。
早く全部終わらせて、ベッドに飛び込みたかった。
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揺れが止まった。
レノは曲げた足を一度持ち上げて、勢いをつけて飛び跳ねるように立ち上がった。
「ふぅー。やあっとついたか」
ネコのように体を伸ばすレノの横で、のそりと緩慢な動きでルードが体を起こす。
「おい、ルード、身体伸ばしとけって。あとで動けねえとダサいぞ?」
「いや」
ルードの視線がレノに移る。
「……頭をぶつけるのは、勘弁だ」
「なんだよ、引っかかんねーのかよ。オレだけ頭ぶつけるとか、つまんねえっつーの」
拗ねたようなレノの態度に、誰かが小さく笑いを漏らす。
それに続くように幾人かのヘルメットが揺れる。
気を良くしたようにレノが口笛を吹いた。
「よーし、空気も温まってきたみてえだし、そろそろいくか」
口調こそふざけていたが、最後の言葉は意外にも低い声で締めた。
「オシゴトの時間だ」