第2章 煙草の味を覚えた日
アグレイスは、何度記憶を辿っても、レノとの初顔合わせを思い出せない。
隠密活動に向いているとはとても口にはできない、派手な外見を覚えていないのかと問われても、あんなによく喋る男そうはいないと呆れ顔を見せられても、思い出せないものは思い出せない。
彼女が所属する総務部調査課に人が入ることは珍しいことではなかったし、人がいなくなることも珍しいことではなかった。
仲間意識が芽生える前に、別れが訪れることだってその一つでしかない。
そんな理由から、紹介されていたとしても、特に印象に残らなかったのだろう。
そんな彼女が、レノをレノとして意識したのは、とあるミッションに向かうトラックの荷台だった。
外が見える窓は二つしかなく、車内は暗く狭かった。
膝を抱えて揺れに耐えているのは、アグレイスたちのほかにも数人いた。ソルジャーと呼ばれる新羅の兵士だ。特徴的なヘルメットは皆うつむき、誰も彼もが嚙みしめた口を開かず、沈黙を貫いていた。
無理もない。ブリーフィングで伝えられたミッションはとても人道的とは言えないものだった。そこにいた全員がそれに異を唱えられるわけもなく、荷台に押し込められたのだ。
そんな状況に耐えられなかった男が一人。
ーーそれがレノだった。
タイヤが石に乗り上げたのか、大きな揺れがあった。皆がそれを穏便にやり過ごしていたが、レノだけは違った。
「いってぇー!!」
後頭部を押さえ、その場にうずくまる。
素行の悪さを隠さない姿勢が災いしたのか、陣取った場所が悪かったのか、体制を崩した先にあったのは幌を支える骨組みだった。
それを皮切りに車内は、レノの劇場と化した。
痛みを訴える悲鳴、トラックの運転の荒らさへの文句、揺れによる腰痛の保険適用、前の日に飲んだ酒の安っぽさ……次から次へとマシンガンのように言葉が飛び出す。
隣に尻を付けるレノとは別の意味でガラの悪い男--ルードはその口を止めることもなく、時折短く反応する。決して肯定的な返事だけではないが、レノはまったく気にした様子を見せなかった。