第3章 過ぎた日
淡い光にまどろみながら目を開く。
窓に近いこの場所には、暖房に押し返された冷気が漂っていた。
すぐそばの心地よい熱源に身を寄せ、
それが人の肌であり、なおかつ見慣れた顔を持っていることに気付く。
ぼんやりしていた頭に、ゆっくりと冷静さが戻る。
眠っている姿は、何度も見てきた。
けれども、今日のように穏やかに眠る横顔は初めてだ。
まじまじと眺めて、ふいによぎるのは、熱を帯びた声。
意識した瞬間、頬がじわりと熱を持つ。
昨夜の二人は、境界線が曖昧だった。
ミッションの完遂による安堵感。
クリスマスムードの高揚。
強いアルコールによる酩酊。
そして、ブレーキ役であるルードの不在。
理由を挙げればきりがない。
だが、どれもがそれだけで線を超えるほどのものにはならない。
背中を押したものの正体は、アグレイス自身の中にあった。
見ないふりをしてきた、静かに積もった想い。
息を潜め、シーツ置いた手をそっと滑らせる。
まだ起きないでほしい。
けれども、起きてほしい--相反する感情が交互に胸を満たす。
ドスンッ。
屋根の雪が、重たい音を立てて落ちた。
男の瞼がピクリと動き、ゆっくりとまつ毛を持ち上げる。
どこか夢見がちな表情のまま、アグレイスの額に唇が触れた。
そして、彼女を見る。
「っ……」
目を大きく見開いたまま、表情が凍りついた。
アグレイスはシーツを滑り降り、散らばった自分の服を拾い集める。
素早く身に着けると、扉に手をかけた。
「今日の午後から、ミッションあるから」
涸れた喉から、嘘がひとつ、転がり落ちた。