第3章 過ぎた日
ドンッ。
成人男性が横になるには、窮屈なベッド。申し訳程度に備え付けられたデスクに置かれた壺に、アグレイスは怪訝な表情を浮かべた。
赤と金に彩られた豪華なラベル。書かれた文字は異国の言葉だが、彼女が所望した「普通」のビールではない。
置いた本人が肩をすくめる。
「それしかねーんだとよ。まったく、高ぇ買い物させられたぜ」
アグレイスは腰をかがめると、冷蔵庫から取り出した料理を並べる。
その一つを手に取ると、レノの顔つきが変わる。
「私たちは、クリスマスを少し甘く見過ぎていたようね」
「これ、経費扱いにならねーのか?」
「念のため、領収書でもらっておいたわ」
レノに向かって、「お品代」と書かれた紙をふよふよと振って見せる。
ゼロの数は、数えたくない、とばかりに、彼は顔を背けた。
アグレイスが座ったまま横へとずれる。レノは髪に指を差し入れて、壁に掛けられた絵の方をちらりと見る。
「ルードはどうした?」
「先に部屋に戻るそうよ」
彼女が手にしたキーを鳴らすと。レノは頭を掻く。
満員御礼で追い出されなかったホテルだ。相棒との添い寝くらいなら、まあ妥協の範囲だ。
「安心して、他に傷がないことは確認したわ」
「……確認?」
まったく気にもならない事柄に、片眉を上げる。
「全部ひん剥いた」
「やりすぎだっての。……いや、パンツはねーよな」
一歩引いたレノが、壁に背中をぶつける。
「意外に可愛いのを履いていたわね」
「マジかよっ!」
「ふふっ。冗談。それだけは断固拒否って腕ごと押さえつけられたわ」
大げさに食いつくレノに、彼女は声を上げて笑う。
「冗談じゃねえっての。ホテルで男の服脱がして押し倒されるってオマエなー」
「ねえ、この青椒肉絲、パイナップル入ってるわよ!」
「自由過ぎるだろっ!!」
レノの方を無視して、割りばしを持ち上げる彼女の姿に、ため息をつく。
隣にダルそうに座った彼が、重そうに壺の栓を抜いた。砂糖を煮詰めたような香りが部屋に広がる。
嫌そうな顔をした彼に、アグレイスは紙コップを上げてにこりと笑った。