第3章 過ぎた日
あれから数週間。アグレイスは忙しい日々を送っていた。
彼女は、タークスの中でも浮いた存在だった。
養成所では優秀な成績を修めてはいたが、身体能力も判断力も突出したところはない、玄人の仕事が求められる現場には、不釣り合いな、平凡な少女。スカウトした本人でさえ彼女をそう評価した。
だがそれは、意識に変革をもたらしたあの日を境に変わった。
突然強くなったわけでも、統率力が増したわけでもない。
ただ、意識すること。たったそれだけのことが、彼女の思考を一瞬で核心を突く、研ぎ澄まされた刀のようなものへと変えたのだ。
使える駒は使い尽くす。
そんな彼女を必要とする場面が増えるのは、自然な流れだった。
参加するミッションが増えたからか、難易度が上がったからか。あるいは、その両者が関係しているのか。今まで顔を合わせなかったことが不思議なくらい、レノとルードと遭遇する機会が多くなった。
レノは頭を揺らし、アグレイスの下方から見上げるようにして言った。
「まだ、生きてたのか」
言葉を素直に受け止めれば、ただの悪口ともとれないその一言は、いつ死ぬかわからない危険な任務を遂行するタークスの間では、ありふれた挨拶だった。
始末書をルードに押し付けるオフィスでも、多くの兵が集まった大規模なミッションでも、要人の護衛に駆り出された煌びやかなパーティでも--どこであっても、レノは目ざとくアグレイスを見つけ出しては、その生存確認をしてきた。
レノに連れ添うルードの表情は黒いサングラスに隠されているが、アグレイスを見るたびに「元気か」と短く声をかけてくる。その声音が、レノにオネイチャンなどと呼ばれていた時よりも少しだけ柔らかいことにアグレイスは気づいた。
顔見知りが挨拶する関係になり、話す時間が少しずつ長くなっていった。ミッション終わりともなれば、並んで報告書--レノは始末書を書き、時間が合えば食事にも行く。気が付けば、共に過ごす時間はだいぶ長くなっていた。
そうして迎えた、一年前。