第1章 偽りの敬礼
兵長は、おそらく気づいていた。
私が夜中に誰もいない厩舎へ向かうこと。
そして、対巨人用とは明らかに異なる、急所を最短で断つための冷徹な身のこなしも。
それでも、彼は何も言わなかった。
「……お前、何か話したいことはないか」
壁外調査の前夜、彼は私の髪を愛おしそうに撫でながら、静かに問いかけてきた。
私は彼の胸に顔を埋め、首を振ることしかできなかった。
本当のことを言えば、この温もりは瞬時に失われる。
彼は、人類を裏切った女を許すはずがない。
「……すみません。私、弱虫なんです」
「だろうな。……だが、俺の前でだけはそれでいい」
その優しさが、どんなナイフよりも深く私を切り刻んだ。