第1章 偽りの敬礼
それから、兵長が私に向ける視線には「特別な意味」が混じるようになった。
「無茶はするな。お前は……地下で、十分に削られてきたはずだ」
厳しい言葉の裏にある不器用な労り。
兵長に呼ばれて部屋へ行くたび、淹れられた紅茶の香りが私の罪悪感を逆撫でした。
ある夜、彼は私の震える指先を、自分の大きな手で包み込んだ。
「死ぬなよ。……俺の隣で、あの街にはなかった空をずっと見ていろ」
兵長の体温が、私の「戦士としての使命」を溶かしていく。このまま、この嘘の檻の中で彼に愛されていたい。
たとえ、その愛が「地下街の少女」という虚像に向けられたものであっても。
だが、私の懐には、マーレの幹部から届いた非情な命令書が隠されていた。