第1章 偽りの敬礼
「地下街の、どのあたりにいた」
執務室の窓を背に、リヴァイが紅茶のカップを置いた。
鋭い眼光が、私の嘘を見透かすように向けられる。
「……東の、三番通りです。あそこは、いつもカビと汚水の臭いが酷くて」
私は、マーレの資料室で暗記した情報を、さも自分の記憶であるかのように引き出した。
リヴァイは一瞬、遠い目をした。
「あそこか……。クソ溜めの中でも特に酷い場所だったな」
その声には、同じ地獄を見てきた者への隠しきれない共感が混じっていた。
私の心臓が嫌な音を立てる。
「……はい。だから、兵長に初めてお会いした時、勝手ながら親近感を覚えたんです」
捧げた心臓が、嘘の重みで潰れそうだった。
私はマーレの戦士。
ライナーたちの奪還を急かすために送り込まれた刺客だ。
地下街の泥なんて、一度も踏んだことはない。