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夜と夕星

第2章 これぞジジイ殺し。


心の裡であれこれ並べ立てる言い訳とは裏腹に、あたしは鏡に映る自分の顔にため息を吐く。
……――自分の容姿は、別に嫌いではない。けれどそれはそれとして、あたしの容姿は御世辞にも美人とは言い難い事も事実だ。

(…………堂島さん、美人だよなあ。睫とかバサバサしてたぞ…………
……――あの人の隣を、このスッピン晒して歩くのか…………?)

それは、考えるだけでゾッとする想像だった。
あたしはいまいちど、ため息を吐く。
洗面台の、化粧品を仕舞い込んでいた抽斗を開ける。
……――フルメイクなんて、きちんと朝食を用意したのと同じくらい久しぶりだ。
堂島さんがあらわれてから、久しぶりな事続きだ。



白いリネンのシャツに、ユーズド加工のインディゴのデニム。髪もカジュアルにローポニーテールに纏めて、あたしはシャワールームを出た。

「おまたせしました」

リビングに顔を出す。堂島さんはテレビを見ていた。報道番組とワイドショーを折衷したような昼間の帯番組は、プロ野球選手の離婚というゴシップを重大ニュースのように報じている。

「……――本当に、俺がいた世界とは別世界なんだな。
球団名も選手の名前も、聞き覚えがない」

ふう、と息を吐いて、堂島さんは立ち上がる。
仕立てのいいジャケットのフラワーホールからは、東城会の代紋が外されていた。

「準備が出来たなら、出るか」
「あ、待ってください。お金…………
あたしが支払うんじゃ買い辛いものもあるでしょうから」
「…………悪いな」
「いいえ。提案したのはあたしですし…………
あと、“設定”覚えてます?」
「ああ、俺とアンタは遠距離恋愛中の恋人同士…………って設定だろ?
俺は溜まった有給を消化してアンタに逢いに来てる」
「はい。
変な設定を付けてしまって、本当に心苦しいんですけど…………
こう田舎だと、プライバシーの概念が希薄な人も多くて。
探りを入れられたら、その設定でごまかしましょう」
「わかった」

堂島さんは、神妙な顔をして頷く。
……――いい人なんだよな。優しくて、懐が深い。
カッコいいんだよなあと、少し悔しい気持ちになった。
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