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夜と夕星

第1章 事実は小説よりも奇なり。だいぶ。


「……――どうぞ」

黒豆茶を注いだティーカップを、堂島大吾の前に置く。「ありがとう」と紡ぐ低い声が、深夜のリビングに落ちた。
あたしは胸に抱えたトレイをキッチンカウンターに返してから、堂島大吾が座るソファの向かいの席に腰を下ろして、軽く会釈をした。

「この家に住んでいます、薬師ハルです…………」
「堂島です」

堂島大吾が頭を下げる。古いソファがギッと軋みを上げた。
あたしはカラカラに乾いた口を黒豆茶で潤してから、テレビボードから取り出してきた古いゲームソフトをローテーブルの上に並べて、姿勢を糺す。

堂島大吾はテーブルの上に並んだ『龍が如く』シリーズのパッケージ(彼は今41歳との事なので、6までのナンバリング作品だ)を訝しげに見下ろしていた。

「……――これが…………
アンタが言う、『俺が元いた世界』か」
「信じて貰えないとは思います」
「ああ、到底信じられる事じゃない」

断言して、しかし堂島大吾は、手に取り上げた5のパッケージを懐かしむように見詰める。

「だが…………これは確かに桐生さんだ。冴島さんや、辰雄までいる。
……――俺達は、こんな稼業だ。進んで表に姿を晒す事は滅多にない。
まあ、報道されちまう事は多いがな。
それが、こう堂々と商品のパッケージを飾るなんて…………」

会話の途中で小粋な(?)ヤクザジョーク(??)を挟んだ堂島大吾に、あたしは反応に窮してしまう。

堂島大吾は「東城会本部の会長室から廊下に続く扉を開けたら何故か見ず知らずの女の家のLDKの扉を開けていた」「知人の誰にも連絡がつかない」というトンチキきわまりない状況に晒されているというのに泰然としたもので、ひとり狼狽えているあたしをよそに、自若として思案に暮れている。
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