第3章 そりゃ神室町とくらべたら日本全国津々浦々が田舎だけれども。
雑談に興じながら、青果コーナーを抜けた時だった。
聞こえてきた呼びかけに、あたしは内心呻く。けれどそれを表情に出す訳にはいかないから、あたしはその呻きを腹の底に飲み込んで、かわりに出来るだけ愛想のいい笑みを顔に貼り付けた。
「山田さん、お久し振りです」
山田さんは、あたしが農家をはじめる前に勤めていた会社の同僚だ。
噂好きな人で、割とエゲツない暴言を悪意なくポンポン発する。面倒見のいい人だし、決して悪い人ではないが、付き合い方には少しコツがいる。
「ホント、久しぶりねェ。薬師ちゃん、元気にしてた? アタシはあいかわらず膝が痛くて…………アタシの膝を診てくれているイケメン先生も異動しちゃったし、心も身体もブルーってカンジ。薬師ちゃんはどう? 農家、上手くいってる? っていうかあらあ、誰よこの色男っ。ねえ、ちょっとアンタ、この辺じゃ見ない顔ね? なに、薬師ちゃんのいい人??」
久しぶりに聞いたが、あいかわらずのマシンガントークだ。怒涛のようで、目まぐるしい。あたしは乾いた笑いを浮かべながら、あらかじめ堂島さんと共有しておいた設定をひっぱりだす。
踏み込まれる前に先んじて情報を開示するのが、山田さんの詮索をいなすコツだ。