第16章 温もりは海を越えて
「どうしたの?」
椅子の肘掛に腰をかけるように言われ、軽くかける。
悟は私の背中に寄りかかってきた。
「今ね、なんていうか……寂しいのかもしれない。恵や千景を見ると、思い出しちゃうんだ」
声は抑揚がなく、静かに耳に通る。
背中にはただ、悟の温度を感じる。
そんな空気の中、いきなり腰を抱かれ、ビクッと反応する。
――憂太がいたら怒られちゃうよ……。
「憂太のこと好き?僕も……恋じゃないけど、恋しく思う奴がいる」
悟の言葉を聞いて、1人思い浮かんだ人物がいた。
憂太と戦い、悟が終わらせた――夏油傑。
悟の親友。
大人しく抱かれたままでいると、悟はクスクスと笑い出す。
「警戒しなさい」と……。
警戒する必要はないだろう。
悟は、私の兄のような、父のような……ただの教師ではない。
「僕さ……千景の身体、見たよ。触ったよ」
心臓が音を立てて跳ねた。
どうやら、禪院家から帰ってきた後、眠ってしまった私の身体を拭いていたらしい。
綺麗になってるなとは思っていたけど、全部見られていたとは……。
いきなり手首を掴まれたかと思うと、机の上に座らせられる。
私を囲うように両脇に手をついた悟。
「ほら……こんな簡単に、僕の手の中だ」
「悟……別に悟は何もしないでしょ?悟のこと、ちゃんとわかってるもん。いつもありがとう。憂太とのことも、私に居場所をくれたことも……」
みんなは"信用は出来るけど信頼は出来ない"と悟のことを言うけれど、私はこのバカげた男を信頼している。
これからも、悟は悟のままでいてくれると、信じてる。
悟は少し黙って、蒼い瞳で私をジッと見つめてくる。
でもすぐに細めて笑った。
囲った手を取り、机から降ろしてくれる。
私の頭をポンポンしながら立ち上がり、「行こうか」といつもの悟の声がした。