第1章 はじまり
サンジに腕を支えられたまま、少し落ち着いてから。
「……とりあえず、飯食えるか?」
その声に、ようやく現実に引き戻される。
「あ、はい……」
でもまだ頭が追いつかない。
周りには本物の海賊たち。 目の前には、推しそのものの男。
「名前は?」
ふいにサンジが聞いた。
一瞬、詰まる。
(ここで言うの……?)
現実じゃないのに、なぜか緊張する。
「……ことみです」
小さく名乗ると、
ルフィ が即反応した。
「ことみ!よろしくな!!」
「えっ、近い近い」
ぐいっと距離を詰めてくるルフィに、思わず一歩下がる。
その勢いに飲まれながらも、ことみは必死に言葉をつなげた。
「えっと……本当に知らない場所に来ちゃってて。帰り方も分からなくて……たぶん、元のところにも戻れないかもしれなくて」
そこまで言って、少しだけ息をのむ。
「だから……正直、行くところもないです」
その言葉に、空気が少しだけ変わる。
その様子を見て、ナミ がふっと笑う。
「ほんとに流れ着いたのね……」
「普通に考えて意味わかんないですけどね……」
あなたがぼそっと言うと、
サンジが煙を吐きながら軽く笑った。
「まあ、今さらだろ」
「……ですよね」
そう言われた瞬間、 ようやく少しだけ肩の力が抜ける。
名前を呼ばれたことで、 この世界に“ちゃんと存在してしまった”感じがして。
逃げられない現実感が増したのに。
なぜか、ちょっとだけ安心もしてしまった。
サンジが軽く手をひらっと振る。
「とりあえず飯だ、ことみちゃん」
その“ちゃん付け”が、 やけに優しくて。
さっきよりもっと、 この世界から逃げられなくなった気がした。