第2章 2
甲板に出ると、風が少しだけ冷たかった。
さっきまでの騒がしさが少し遠のいて、 海だけが静かに広がっている。
(……うん)
ことみは小さく息を吐いた。
好きなのは、最初から変わってない。
画面越しに見ていた時から、 あの声も、雰囲気も、全部ちゃんと“推し”だった。
サンジの声が聞こえるだけで、少し嬉しくなるのも同じ。
でも。
今は違う。
その声が、すぐ近くで普通に飛び交っている。
「ナミさーん、それこっちです」
何でもない一言。
なのに、空気ごと現実に引き戻される。
(……ほんとにいるんだ)
頭ではわかっているのに、目の前の感覚が追いつかない。
好き、は好き。
それは変わらない。
でもそれはずっと“遠くのもの”としての好きだった。
今はその“遠さ”がなくなっている。
近いのに、まだ現実としてうまく繋がっていない感じ。
同じ船にいるのに、 どこかだけフィルターがかかっているみたいで。
ことみは柵に軽くもたれながら、 その違和感をごまかすように海を見た。
遠くでまた、サンジの声がする。
ただそれだけなのに、 さっきより少しだけ胸がざわついた。