第2章 2
ナミが地図を閉じて、軽く伸びをする。
「ねぇ、ことみ」
「はい?」
ナミが、少しだけこっちを見る。
いつもより、少しだけ間の取り方が柔らかい。
「ことみってさ、推し……だったっけ?」
「え?」
一瞬、手が止まる。
「推し?」
「ほら、好きなやつとか。そういうの」
さらっとした言い方なのに、妙に核心を突いてくる。
「……いますけど」
小さく答えると、ナミは「やっぱりね」みたいな顔をした。
「へぇ。誰?」
心臓が少しだけ早くなる。
(言えるわけない)
この船にいる“その人”なんて。
「それは……」
言葉が詰まる。
その時だった。
少し離れた厨房の方から声が飛ぶ。
「ナミさーん、それこっちです」
サンジの声。
何気ない、いつも通りの声
それなのに、そのタイミングで名前が出るのが最悪すぎる。
ナミがちらっとそっちを見る。
そして、小さく息をついた。
「……あー」
「え?」
「いや、なんでもない」
軽く流すように言ってから、ことみの方を見る。
「まぁ、わかりやすいけどね」
「何がですか?」
「さぁね」
そのままナミは歩き出す。
残されたことみは、さっきの会話を頭の中で繰り返す
(わかりやすいって何……)
でも遠くでまたサンジの声がして、 考える前に意識がそっちへ引っ張られる。
ただの日常なのに、 少しだけ落ち着かないまま時間が流れていく。