第1章 はじまり
厨房での作業がひと段落した頃。
皿に盛られた料理が、次々とデッキへ運ばれていく
ことみも手伝いながら、なんとなくその一皿を受け取った
「……あれ?」
ふと、気づく
他の人の皿と、少し違う。
盛り付けが丁寧で、量もちょっとだけ違う。
「それ、ことみちゃんの分な」
サンジが何気なく言う
「え、これ私用ですか?」
「そうだ」
「……なんでですか?」
「別に」
即答。
その“別に”が一番説明になってない。
「みんなと同じでいいんですけど……」
「いいから食え」
軽く流される。
でも、目の前の皿はやっぱり違う。
少しだけ温かい気がした。
そのままデッキに戻ると
ルフィが一番に気づく
「おー!ことみの飯それだけ違くね?」
「え?」
「なんかうまそう!」
「いや同じですけど……たぶん」
そこへ、
ナミがちらっと見てくる。
「……それ、あんた用?」
「え、そうらしいですけど」
「ふーん」
その“ふーん”が妙に意味ありげだった。
ウソップが小声でルフィに言う。
「なぁ、あれさ……」
「ん?」
「いや、なんでもねェ」
聞こえてるのに、聞こえないふり。
ことみは気づかないまま皿を見つめる。
(なんで私だけ違うんだろ)
理由は聞けばわかるのに、 なぜか聞けない。
その時
後ろから声
「おい」
サンジだった。
「……はい」
振り向くと、いつも通りの顔。
でも、少しだけ距離が近い。
「まずいか?」
「いえ、すごく美味しいです」
即答すると、サンジは一瞬だけ目を細めた。
「ならいい」
それだけ。
なのに。
その一言が、さっきより少しだけ重い。
(……これ、ほんとに普通なのかな)
自分の皿を見ながら思う。
みんなと同じ船なのに、 少しだけ自分だけ違う場所にいる気がする。
その“違い”の理由を、
まだ誰も説明しないまま、昼の海は静かに揺れていた。