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夢のまま【サンジ】

第1章 はじまり


デッキでのやり取りのあと、サンジは軽く煙草を指で払った。

「ことみちゃん」

「はい」

「ちょっと厨房手伝え」

それだけ言って、もう歩き出す

「え、今ですか?」

「今だ」

有無を言わせない感じなのに、怖さはない

ことみは少し遅れてついていく

船内に入ると、途端に熱気といい匂いが混ざった空気に包まれた。

サンジの厨房は、いつもより忙しそうだった。

「これ切っといてくれ」

まな板と包丁が目の前に置かれる

「……私で大丈夫ですか?」

「死ぬもんじゃねェだろ」

軽い。

なのに、その言い方が妙に安心する

「こう、ですか?」

慎重に野菜を切ると、サンジが横からちらっと見る

「悪くねェな」

それだけ。

それだけなのに、少しだけ嬉しい

距離が近い。

さっきからずっとそうだ。

隣でサンジが皿を洗う音、包丁の音、鍋の音。

その全部の中に、自分が混ざっている感じがする。

(やばい……)

また、さっきの感覚が戻る

声。

近さ。

空気。

普通に喋ってるだけなのに、落ち着かない。

サンジが何かを指さす

「次それな」

「はい」

返事をして、手を伸ばす。

一瞬、腕が少しだけ触れそうになる距離。

(近い近い近い)

心の中だけ忙しい。

でもサンジは気にしていない。

「包丁の持ち方はそれでいい」

「……はい」

「変なとこ怪我すんなよ」

それはただの注意のはずなのに、 なぜか少しだけ“見てる”感じがする。

厨房の音に紛れて、 ふとサンジがぼそっと言った。

「お前、ほんと落ち着きねェな」

「え?」

「さっきから顔が忙しい」

「……してません」

「してる」

即答される。

さっきと同じやり取りなのに、 今は距離が近い分だけ妙に効く。

ことみは包丁を持ったまま固まる。

(この人ほんと……声ずるい)

ただ呼ばれただけなのに。

ただ指示されただけなのに。

ずっと頭の中に残る。

サンジは何も気づかないまま、鍋をかき混ぜている。

その横顔を見ながら、

ことみは自分の感情をうまく処理できないまま、 ただ作業を続けた。
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