第5章 記憶×記録
低く掠れた声だった。
ぎゅっと抱きしめる力を強めて続けた。
乙骨「子供っぽいかもしれないけど。
五条先生に、やきもち妬いてて。
僕、全然余裕ないや……。」
最後は、ほとんどため息みたいだった。
乙骨「さんが僕の事覚えてなくても、
それでも会いたいと思ってたはずなのに。
会えたら、会えたで、僕、欲張りだね」
抱きしめられたまま、動けない。
夏の熱。
風の匂い。
近すぎる鼓動。
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懐かしい匂い。
彼の匂い。
あぁ、そうだ、
思い出した
「・・・・憂太くん。」
震える小さな声だった。
乙骨「・・・・?」
乙骨の腕の力が、わずかに緩む。
蘆屋の喉が震える。
頭の奥へ、一気に流れ込んでくる。
高専で出会ったこと。
大事にしてもらったこと。
一緒に任務へ出たこと。
お互い仕事(任務)で離ればなれになったこと。
空港での再会。
任務先での出来事。
そして、不可抗力とはいえ
五条と関係を持ってしまったこと。
罪悪感で胸が苦しくなった。
「わ、わたし……っ。」
気づけば涙が溢れていた。
「ごめんなさい……っ……。」
ぽろぽろと零れる涙が、乙骨の服へ落ちていく。
乙骨「!!」
乙骨が目を見開く。
主人公を抱きしめたまま、震える声で名前を呼んだ。
乙骨「さん……僕のこと……。」
蘆屋は泣きながら、小さく頷く。
その瞬間。
乙骨の鼓動も一気に高まる。
夏風がひまわりを大きく揺らした。
眩しい青空の下。
止まっていた時間が、ようやく少しだけ動き出した。
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「・・・・・私、五条先生と・・・」
そこまで言った瞬間。
乙骨はふっと困ったように笑って、やんわりと言葉を遮った。
乙骨「言わなくていいよ。」
乙骨は少しだけ目を伏せる。
夏風が、黒髪を静かに揺らした。
乙骨「それは、仕方ないことだし……。」
本当は。
全然平気じゃない。
胸だって苦しい。
嫉妬もする。
でも、記憶を失って、不安な中で縋った相手を責めたくはなかった。
乙骨は小さく笑う。
乙骨「それに。」
これから、僕が上書きしていくからね。」