第5章 記憶×記録
五条はそんな二人を見比べて、満足そうに笑う。
そして立ち上がると、ひらひらと手を振った。
五条「じゃ、後は若いお二人で楽しんどいで〜。」
乙骨「え、五条先生!?」/「……え?!」
二人の反応なんて気にも留めず、五条はそのまま背を向ける。
しばらくして、五条の姿がひまわりの向こうへ消えていき、
辺りに微妙な沈黙が落ちる。
風が葉を揺らし、遠くで蝉の声が響いていた。
乙骨(――か、、完全に、置いていかれた。)
乙骨「えっと〜……。」
何か話さなきゃ、と思うのに、上手く言葉が出てこない。
記憶を失う前なら、こんな沈黙に困ることなんてなかったはずなのに。
今のさんにとって、自分はまだ“距離の分からない相手”なんだ。
そう思うと、変に緊張してしまう。
乙骨が困ったように視線を泳がせていると、
蘆屋が不意に口を開いた。
「……あの。」
乙骨「え?」
蘆屋は少し迷うように視線を揺らして、
それからひまわり畑の奥を指差す。
そこには、小さな売店と、夏らしいシンプルなソフトクリームの旗が立っていた。
「あ、暑い・・・ですね。実は、さっきからあそこのソフトクリーム、気になってて。」
ふわりと風が吹いて、彼女の髪が揺れる。
乙骨は一瞬きょとんとして、それから思わず小さく吹き出した。
乙骨「ふふっ、そうですね、行きましょっか!」
張り詰めていた空気が、少しだけ柔らかくほどけていく。
ひまわり畑の中を通る小道を、二人並んで歩いて売店を目指す。
背の高いひまわりが風に揺れるたび、葉の擦れる音がさらさらと耳を掠めた。
遠くでは、売店の風鈴が小さく鳴っている。
「……。」
隣を歩いていた蘆屋が、不意にひまわりへ視線を向けたまま、小さく口を開く。
「……ごめんね。」
乙骨「え?」
あまりにも唐突で、しかもどこか意味深な声音だったせいで、乙骨は思わず足を緩めた。
蘆屋は少し困ったように笑う。
「五条さんが、乙骨さんのこと“大切な人”だって言ってたから。」
風が吹き、髪がふわりと揺れる。
視線を落としたまま、どこか気まずそうに笑った。