第5章 記憶×記録
乙骨に気づいた五条はひらりと片手を上げた。
五条「やっほ~!おまたせ〜」
いつも通りの軽い声音。
その隣で、蘆屋は少し緊張したように乙骨を見上げている。
乙骨は一瞬だけ言葉を失った。
記憶を失う前なら、当たり前みたいに隣にいた彼女が、
今は“初対面の相手”を見るみたいな目をしている。
胸の奥がまた少し痛む。
けれど、それを顔には出さないように、小さく笑った。
すると五条が、わざとらしく咳払いをひとつして、
蘆屋の肩を軽く押す。
五条「はい、注目〜。」
にこにこと笑いながら、五条は乙骨へ手を向けた。
五条「こちら、僕が紹介したかった――」
わざと間を空ける。
五条「乙骨憂太くんでーす!!」
「……乙骨、さん。」
その名前を確かめるみたいに、小さく呟く。
乙骨は胸の奥がきゅっと締め付けられるのを感じながらも、
静かに口を開いた。
乙骨「……はじめまして、乙骨憂太です。」
困ったように笑う声は、
自分で思っていたよりずっと優しかった。
「あ、えっと、蘆屋です、」
ちょっと緊張したように挨拶をする蘆屋。
-ピロン♪
- LINE(2年ズ) -
パンダ「乙骨頑張れよ」
真希「気ぃ遣ってやったんだから、しっかりしろよ」
狗巻「すじこ。」
・
・
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乙骨「……っ。」
思わず顔を引きつらせる。
乙骨(や、――やられた。)
乙骨は小さく息を吐いて、スマホを握り直した。
乙骨(・・・逃げちゃだめだ。)
そっと気持ちを落ち着かせるように息を整え、顔を上げた。
すると、その様子を見ていた五条が、ふっと口元を緩める。
五条「ま、そーいうことで。」
軽い調子のまま、五条は主人公の隣へしゃがみ込むようにして目線を合わせた。
五条「憂太はね、僕にとっても大事な人だけど。」
そこで一度、乙骨の方を見る。
五条「ちゃんにとっても、大事な人なんだよ。」
「……!」
少し驚いたように目を瞬かせて、それから静かに乙骨を見る。
その視線に、乙骨の胸がまた苦しくなる。