第5章 記憶×記録
しかし次の瞬間、
珍しく少しだけ考え込むように顎へ手を添えた。
五条「ん〜……。」
その空気に、全員が口を閉ざす。
軽薄に笑って誤魔化すのではなく、
本当に悩んでいるように見えた。
そして。
五条「今は、会わない方がいい。」
ぴたり、と空気が止まる。
伏黒「……なんでですか。」
釘崎「そんなに状態悪いの?」
虎杖「え、実はとんでもない後遺症とか・・・」
次々に飛ぶ言葉。
五条は数秒だけ沈黙した後、静かに口を開いた。
五条「――ちゃんさ。」
その声音だけが、妙に冷静だった。
五条「君たちのこと、何も覚えてないんだよね。」
全員の表情が固まる。
虎杖「……え?」
乙骨の指先が、ぴくりと揺れた。
五条「ま、正確には2年前までは思い出してるっぽいし、僕の認識はあったから、一時的な記憶障害だとは思うけど。」
あくまで軽く言う。
けれど、その言葉はあまりにも重かった。
釘崎「……は。」
真希「おい、待て。」
伏黒「……この2年間、全部、ですか。」
五条「全部。」
静寂が落ちる。
つい数日前まで隣にいた人間が、自分たちを知らない。
その事実が、誰の中でもうまく処理できなかった。
虎杖「……俺らのことも?」
五条「うん。」
虎杖「高専も?」
五条「うん。」
乙骨は俯いたまま、小さく息を呑む。
五条はそんな彼らを見渡しながら、珍しく笑わなかった。
五条「だから今はまだ、会わせられないっていうのが正解かな。だいぶ呪力コントロールもできるようになって、体調はいいみたいだし。」
その言葉だけが、静かに食堂へ落ちた。
五条「あぁ、そうそう。これ。」
五条はポケットから蘆屋のスマホを取り出す。
乙骨「あ、、、」
五条「ちゃんには渡せない。だからしばらく憂太が持っててよ。」
乙骨「・・・・はい。/虎杖「……あのさ。」
重く沈んだ空気の中で、最初に口を開いたのは虎杖だった。