第5章 記憶×記録
トマトを炒めると、
甘酸っぱい香りが広がった。
ツナを加え、
コンソメを少し。
ぐつぐつと煮える赤いソース。
木べらでゆっくり混ぜながら、ふと小さく笑う。
誰かの帰りを待ちながら夕飯を作るのは久しぶりな気がした。
頭の上では、カワウソ呪骸が静かに丸くなっている。
窓の外が、
少しずつ橙色へ染まっていった。
少ししてから、扉が開く音がした。
続いて、
聞き慣れた間延びした声。
五条「ただいま〜……」
ちょうどパスタを皿へ盛り付けていたところだった。
トマトの香りが部屋いっぱいに広がっている。
頭の上では、
カワウソ呪骸が丸くなったまま尻尾を揺らしていた。
リビングへ入ってきた五条は、
その光景を見た瞬間、ぴたりと足を止める。
五条「……あらら」
サングラスを少し下げ、
キッチンを見つめる。
テーブルの上には二人分の皿。
湯気の立つパスタ。
切り分けられたサラダ。
思わず五条が目を瞬かせた。
そして次の瞬間。
にやぁ、と口角が上がる。
五条「奥サン、もしかしてご飯作って待っててくれたの?可愛い奥さんだねェ~」ニヤニヤ
蘆屋は少し考えてから、
木べらを持ったまま、ふっと笑う。
「……おかえりなさい」
五条が目を丸くする。
少し照れたように目を逸らしながら続けた。
「ご飯、できてますよ」
ふふっ、と小さく笑う。
五条「……」
「……五条さん?」
返事がない。
不思議に思って顔を上げると、
五条は片手で口元を押さえていた。
五条「……悪ノリはだめだよ」
五条はゆっくり天井を仰ぐ。
五条「なにそれ。新婚設定?」
「し、知りませんよ。ただいま、の次は、おかえりなさい、って決まってるんです」
五条「まったく・・・どこで覚えてきたんだか。ねぇ?」
行き場のない気持ちを蘆屋の頭に乗っけられた
カワウソへ向ける。
暖かい食卓。
家族の時間。
「早く食べましょう、冷めちゃいます。」」
五条「あぁ、」
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