第5章 記憶×記録
乙骨「どこにいるんですか」
空気が少し張る。
五条は笑ったまま答えない。
乙骨は続けた。
乙骨「・・・・会えないんですか」
その声は穏やかだった。
五条「そうだねぇ、居場所は教えてあげられないけど・・・・」
真希「けど・・・?」
五条「目は覚ましたよ。今後は療養しながら、呪力コントロールの調整ってところかな。」
乙骨「・・・・・。」
乙骨は俯いたまま、何も言わない。
五条はそんな彼を見つめながら、静かに目を細めた。
五条「大丈夫だよ」
けれど、その言葉に、乙骨は返事をしなかった。
病院の廊下を、遠くのナースコールが微かに横切った。
重たい沈黙。
それを壊すように、五条がいつもの調子でパンと手を叩く。
五条「はいはい、暗い顔しなーい。死ぬわけじゃないんだから」
真希「そういう問題じゃねぇだろ」
真希が五条を睨む。
五条「まぁまぁ。僕だって好きでこんなことしてるわけじゃないって」
軽く笑う五条。
五条「……とにかく、様子見って感じ。結構消耗してたみたいだからねぇ」
パンダも空気を読んだように息を吐いた。
パンダ「ま、元気ならそれでいいけどな」
乙骨「……」
乙骨だけが、まだ何も言わない。
五条はそんな彼を横目で見たあと、わざと明るい声を出した。
五条「優太、そんな顔しないの。ちゃんと会えるようになるから」
その言葉に、乙骨はゆっくり顔を上げる。
乙骨「……はい」
短い返事。
五条はそれ以上何も言わず、ひらひらと手を振る。
五条「ほら、今日は解散解散。病院で騒ぐと怒られるし」
真希が小さく舌打ちしながら背を向ける。
パンダと狗巻も続き、
最後に乙骨だけが一度だけ病室の扉を見つめた。
そこに彼女はいない。
やがて足音が遠ざかり、
廊下に静寂が戻った。
窓から差し込む西日が、長く床へ伸びている。
五条はしばらく無言でその光を見つめていた。
そして誰もいなくなったのを確認すると、小さく息を吐く。
五条「……今あってもちゃんは、憂太のこと覚えてないよ。」
ぽつりと落ちた独り言。
あの様子では、優太はすぐに気づく。
彼女が自分を忘れていることを。
――だからこそ。
今はまだ、知らせない。
五条は静かに目を伏せる。
脳裏に浮かぶ昨夜の。
『……誰』
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