第5章 記憶×記録
~東京(某病院)~
埼玉の病院から転院してきてから、
すでに二日が経過しようとしていた。
呪術高専の敷地からそう遠くないその病院は、外見だけ見ればどこにでもあるような静かな総合病院だったが、夜になると空気の密度が少しだけ違う。
呪術関係の負傷者が運ばれてくることもあるせいか、廊下にはどこか慣れた“緊張の残り香”があった。
その夜。
病室の窓際に、五条悟は立っていた。
カーテンは少しだけ開けられ、夜風が白い布をゆっくり揺らしている。
月が出ていた。
雲の薄い夜で、光はやけに澄んでいる。
五条「ん〜……」
五条は気の抜けた声を漏らしながら、片手で頬杖をついた。
笑っているようで、笑っていない。
五条「起きないねぇ……まったく。」
視線の先には、ベッドに横たわったままの蘆屋。
点滴の管だけが、規則正しく小さく揺れている。
五条「二日、か」
五条は月に目を戻す。
五条「早く起きないと、お腹すいちゃうんじゃないの~」
そんな冗談を口にしながら伊地知からの報告を思い出す。
乙骨の説明。伏黒と虎杖が聞いた、あの“呪文”。
──機序接続。
──閉路断絶。
五条「術式っていうよりさ」
ぽつりと、誰にも届かない声で言う。
五条「システムぽいよね~、これ。」
その瞬間だった。
ピ……ッ
病室の奥で、心電図がわずかに乱れた。
五条の視線が一瞬で鋭くなる。
再び。
ピ、ピ、……ピッ
規則が崩れる。
呼吸ではない何かが、病室の空気を引きずり始めた。
窓ガラスが、ごく小さく軋んだ。
点滴の管が、風もないのに揺れる。
そして、ベッドの上。
蘆屋の唇が、ほんのわずかに動いた。
「……っ」
乾いた息のような声。
「……Lāh……」
途切れる。
「……re──」
また、途切れる。
まるで、音そのものが途中で切り取られているようだった。
眠っているはずの喉が、無理やり何かを“呼び戻している”。
五条「……」
五条の表情から、いつもの軽さが一瞬だけ消える。
そして・・・・止まっていた歯車が一度だけ噛み合うように。
「・・・・Lāh re──・・・(機序再醒)」
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