第6章 春夏「秋」冬
伏黒「蘆屋先生が記憶をなくした一件から・・・・
たまに・・・ごくたまにですけど。
すごく不安になります。」
その声に、思わず笑いかけていた表情が止まる。
「心配かけちゃったね。大丈夫だよ。
あの後、虎杖君に触れても大丈夫だったし、宿儺との相性はまだわからないけどー・・」
伏黒「そうじゃないんです。」
視線はアイシングを押さえる手元に落ちたままだ。
どこか言葉を選ぶように、短い沈黙が続く。
伏黒「・・・蘆屋先生が俺らを大事にしてくれるみたいに、
自分のことも大事にしてください。」
「・・・・ふふっ、
年下はね、年上に守られてればいいんだよ。
私も一応先生だからねっ!!!」
わしゃわしゃ、と黒髪を遠慮なく掻き回す。
伏黒「ちょっ、」
突然のことに目を見開く。
伏黒「やめ――」
「心配は気持ちだけ受け取っておくね。
大丈夫、自分のことは自分が一番わかってる!」
さらに乱すように撫で回せば、伏黒の眉間の皺がますます深くなった。
けれど振り払おうとはしない。
伏黒「……子供扱いしないでください。」
低い声で不満そうに言う。
それでもどこか力が抜けていて、さっきまでの張り詰めた空気は少し和らいでいた。
「えー?だって恵くん、まだ高校生じゃん。」
伏黒「その呼び方やめてもらっていいですか。」
「ふふっ、久しぶりに呼んでみた。懐かしいね~」
そんな蘆屋に伏黒は「はぁ、」と諦めたように息を吐く。
伏黒と蘆屋が初めて出会ったのは“五条家”の廊下だった
伏黒が12歳のころ、蘆屋は17歳だった。
春。
柔らかな陽射しが白木の廊下を淡く照らしている。
庭に植えられた大きな枝垂れ桜はちょうど満開で、
風が吹くたび、薄紅色の花びらが雪みたいに舞い上がっていた。
静かな五条家には、遠くで揺れる竹の音だけがかすかに響いている。
廊下の向こう側から、ひらり、と桜が舞い込む。
春風に乗って流れてきた花びらが、一人の少女の髪にそっと落ちた。
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