第1章 彼女の計画、彼の差別化。+
結局、あのあと一睡もできなかった。背中越しに感じるうさみの体温が、まるで静かな挑発のように思えて、拓人は逃げるようにベッドを抜け出した。
喉の奥がカラカラに乾いている。
キッチンで冷たい水を一気に流し込み、大きく溜息をついた。
(……あんな顔されたら、勝てるわけねーわ)
頭を冷やそうとリビングのソファに身を投げ出したけれど、目を閉じれば昨夜のうさみの「お姉さんモード」が鮮明にリプレイされる。
暗い部屋の中、一人で頭を抱え、自分の単純さを呪いながら……いつの間にか、拓人は浅い眠りに落ちていた。
「……ん、……」
顔に当たる柔らかな朝陽に、拓人は重い瞼を持ち上げた。
昨日、あんなに翻弄されたのが嘘のような、穏やかな光。
けれど、起き上がろうとした瞬間に、肩から滑り落ちた毛布の感触に動きが止まる。
「……起きた?」
目の前から降ってきた、聞き慣れた声。
視線を上げると、そこには昨夜、自分が無理やり着せた「俺の匂いの白」を纏ったままのうさみがいた。
少し乱れた髪と、朝特有の柔らかい表情。
「おはよ」と微笑む彼女の姿は、昨夜の艶やかな色気とはまた違う、包み込むような優しさに満ちていて。
「…………っ、おはよ」
拓人は慌てて視線を逸らし、毛布に指を食い込ませた。
昨夜の「敗北感」が、朝の光に照らされて、より一層の羞恥心となって彼を襲う。
しかも、自分が逃げ出したことに気づいて、優しく毛布までかけてくれていたなんて。
「……何、ここで寝てんの。風邪ひくよ」
「……いや。……ちょっと、水飲みたくなって。そのまま、寝落ちしただけ」
素っ気なく返しながらも、耳元が熱くなるのを隠せない。
そんな彼の動揺を見透かしたように、うさみは少し身を乗り出して、彼の顔を覗き込んできた。