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彼はアイドル。-R-

第1章 彼女の計画、彼の差別化。+








静まり返った寝室に、うさみの穏やかな寝息だけが規則正しく響いている。
拓人はふと意識を浮上させた。
まだ夜明けには早い、深い闇が部屋を支配している。


「…………」


すぐ横に、愛しい気配。
拓人は寝返りを打ち、隣で眠るをうさみそっと盗み見る。
昨夜、自分をあんなにも翻弄した「年上の女」の顔がそこにあった。
眠っていてもなお、どこか艶っぽく、昨夜のあの主導権を握った大人の余裕が微かに残っているようで。


(…………っ)


その姿を見た瞬間、拓人の背筋を熱い震えが走り抜けた。

昨夜の感覚が、フラッシュバックのように鮮明に蘇る。

スウェットの裾から忍び寄ってきた彼女の指先、耳元で囁かれた挑発的な声、そして自分を「お姉さん」の顔で可愛がった、あの余裕に満ちた瞳。

思い出唆すだけで、心臓の音がうるさく跳ね始める。
一度乱れた呼吸はなかなか元に戻らず、拓人は自分の情けなさに、暗闇の中で顔を覆った。


(……まだ、引きずってんのかよ、俺……)


彼女はただ眠っているだけなのに。

あんなに余裕を奪われて、最後は視線も合わせられないほどボロボロにされたのに。
今、隣で無防備に横たわる彼女を見るだけで、再び「欲」がせり上がってくる自分に、拓人はひどく焦燥を覚えた。


「……落ち着けって」


自分に言い聞かせるように、掠れた声で小さく呟く。
これ以上彼女の顔を見ていたら、また抑えが効かなくなって、彼女を叩き起こしてしまいそうだ。そうなれば、またあの「お姉さん」顔で笑われて、今度こそ立ち直れなくなる。

拓人は意を決したように、うさみから背を向けて反対側に寝返りを打った。
ぎゅっと目を閉じ、意識を外に向けようと努める。

けれど、背中越しに伝わってくる彼女の体温と、部屋に充満する「自分のスウェットに移った二人の匂い」が、彼の鼻腔を容赦なくくすぐる。


(……無理だわ。寝れるわけないだろ、こんなの……)


背中を向けたまま、拓人は布団の中でシーツをぎゅっと握りしめた。
次に目が合った時、どんな顔をすればいい。
勝ち誇ったような顔で「おはよう、拓人」なんて言われたら。

暗闇の中、彼の耳の付け根は、誰に見られることもなく再び真っ赤に染まっていた。

夜明け前の静寂の中で、彼だけが一人で戦っていた。






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