第1章 彼女の計画、彼の差別化。+
「……わ、わかった。……俺の、……負け」
ついに、絞り出すような声で彼は「敗北」を認めた。
けれど、その言葉とは裏腹に、うさみの腰を掴む手には、もう逃さないと言わんばかりの強い力がこもっている。
「……負けだから、……もう、それ以上、……っ」
拓人はうさみの胸元に顔を押し当てたまま、低く、掠れた声で続けた。
「……これ以上されたら、俺、……明日仕事行けなくなるわ。……加減して……」
降参と言いながら、彼は自分のスウェット越しに、うさみの体温を貪るように深く吸い込んだ。
その情けないほどに甘えた声と、真っ赤な顔。
「推し」のそんな姿を、自分だけの、自分の匂いに包まれた空間で独占しているという事実に、うさみの心臓もまた、破裂しそうなほどに跳ねる。
拓人はゆっくりと顔を上げると、まだ赤みの引かない瞳で、うさみをじっと見つめた。
「……今の、全部覚えてるからな。……あとで、……倍にして返してやる」
精一杯の強がりを口にするけれど、その鼻先がのうさみ肌に触れるだけで、彼は再び、甘い吐息を漏らして崩れ落ちそうになっていた。
年上の本気を突きつけられて、寺西拓人は完全に「陥落」した。
いつもの自信満々な振る舞いも、計算し尽くされた言葉も、今の彼にはもう残っていない。ただ、うさみという熱に当てられて、溺れそうな息を繰り返すだけだ。
「……おいで、拓人」
うさみがその手を引くと、彼は抗うことなく、ふらりと重心を預けてきた。
導かれるままに寝室へ向かう足取りは、どこか危うい。178センチの大きな身体が、まるで道標を求める子供のように、うさみの後を追う。
ベッドに沈み込んだ瞬間、拓人は逃げるように枕に顔を埋めた。
「……っ、……最悪だ……。……格好つかないにも、ほどがある……」
掠れた声で毒づくけれど、その視線はうさみと合わない。
いつもなら、その鋭くも甘い瞳で、射抜くようにうさみのすべてを掌握しにくるのに。
今の彼は、恥ずかしさと、抑えきれない欲求が混ざり合って、視線を合わせる余裕すら奪われている。