第1章 彼女の計画、彼の差別化。+
腕の筋肉が硬直し、逃げようにも、かといって自分から踏み込むこともできず、ただ うさみの体温に当てられている。
完璧なパフォーマンスで何万人を魅了する「寺西拓人」が、今はただ、自分の着せたスウェット一枚に翻弄されて、思考を奪われている。
「ねえ、拓人。……心臓、すごい音。……台本の内容、全部飛んじゃった?」
うさみは彼の首筋にさらに顔を寄せ、その熱を吸い込むように深く息を吐く。
拓人は、カチリと体が固まったまま、喉の奥で「……っ、……あ……」と、意味をなさない吐息を漏らすことしかできない。
「……もう。……お姉さんのこと、ボロボロにできるんじゃなかったの?」
煽るように顔を覗き込むと、拓人はついに限界を迎えたのか、ぎゅっと目をつぶった。
自分の服を彼女に着せて悦に浸っていたはずが、今やその「自分の分身」が、彼女の武器になって自分を追い詰めている。
彼の手は、 うさみの肌の上で止まったまま。
その熱い掌から、彼の動揺がドクドクと、波のように伝わってくる。
「……何、固まってるの。恥ずかしいのは私の方だったはずなんですけど?」
至近距離で、彼の瞳の奥を覗き込む。
いつもなら、その瞳に見つめられるだけで足がすくむのに。今は、大きな黒目が揺れ、視線が彷徨っているのがたまらなく愛おしい。
うさみは、スウェットの中で止まっている彼の熱い掌を、自分の肌に押し当てるように上から重ねた。
「……ねえ、拓人。ここ、私の心臓もすごいよ? ……わかる?」
「っ、……ぁ……、…………」
拓人は、言葉を失ったまま、喉を小さく鳴らす。
自分のスウェット越しに、 うさみの柔らかな肌の感触と、激しい鼓動がダイレクトに伝わってくる。その刺激に、彼の理性がじりじりと削られていくのが、触れている掌から伝わってくる。
うさみはさらに追い打ちをかけるように、彼の耳元に唇を寄せ、吐息を吹きかけた。