第1章 彼女の計画、彼の差別化。+
「……今夜はずっと、それ着て私の相手してね。……拓人の匂い、私のスウェットにも、私自身にも、たっぷり移してよ」
拓人の視線が、一瞬で泳いだ。
耳の付け根が、じわじわと赤く染まっていくのが分かる。
さっきまで「ボロボロになるのを見て気分がいい」なんて言っていた余裕は、もうどこにもない。
「…………お前、……そういうこと、……」
拓人は顔を背けようとするけれど、 うさみがその頬を逃さない。
至近距離で見る彼の瞳は、さっきの支配的な光とは違う、戸惑いと、抑えきれない熱に潤んでいた。
「……ほら。顔、赤いよ? 拓人」
「…………っ、うるさい」
彼はついに観念したように、小さく毒づいて視線を逸らした。
自分の仕掛けた「お姉さん」攻撃が、さらに強力な「女」としての色気で返ってきたことに、彼は完全に虚を突かれたらしい。
「……あれ。さっきまでの勢い、どうしたの?」
耳元で、わざと甘く、そして挑発的に囁いてみる。
目の前の拓人は、さっきまでの「支配者の余裕」がどこへやら、呼吸の乱れを隠せていない。
耳たぶから首筋にかけて、隠しようのない赤みがじわじわと広がっていくのが、この至近距離だと手に取るように分かる。
うさみは、自分の肩を掴んでいた彼の大きな手をそっと取り、そのまま、彼がさっき「俺の匂いに上書きしてやる」と言って着せた、厚手のスウェットの裾から中へと導いた。
「っ……、 うさみ……!?」
拓人の指先が、彼女の肌に直接触れた瞬間。
彼は電気でも流されたかのように肩を跳ねさせた。
「……ここ、一番拓人の匂いがするよ。……ほら、もっとちゃんと触れて、確かめて?」
スウェットの中で、彼の熱い掌が うさみの腰をなぞる。
いつもなら、ここから彼が強引に引き寄せて、すべてを奪っていくはずなのに。
今の彼は、 うさみが導くままに動くことしかできない。
指先が微かに震えているのが伝わってきて、 うさみの胸の奥で、年上の余裕と「推しを翻弄している」という歪な高揚感が混ざり合う。
「……っ、お前……。……ずるいだろ、それ……」
拓人は顔を真っ赤にしたまま、掠れた声でこぼした。
視線を泳がせ、 うさみの瞳を真っ直ぐに見ることができない。