第1章 彼女の計画、彼の差別化。+
「お姉さん」と、年下の武器を投げ、「俺のせいでボロボロになってるの見るのが最高に気分いい」と翻弄する。
そんな彼のお遊びが終わりを迎えた。
「… うさみ?」
さっきまで簡単に崩れていたはずなのに。
目の前の彼女は、どこか様子が違っていた。
うまく言葉にできない違和感だけが、じわりと残る。
「……最高に、気分いい……?」
うさみは彼の胸に顔を埋めたまま、低く、熱を持った声で繰り返した。
拓人の腕の中で、彼の匂いに巻かれて、心臓は確かにうるさいくらい鳴っている。けれど、その「余裕」をこれ以上許しておくのは、年上のプライドが黙っていない。
うさみは、ポカポカと叩いていた手を止め、そのまま彼の首筋に、スウェットの袖越しではなく「生の手」を滑り込ませた。
「っ……?」
拓人の喉仏が、小さく上下する。
うさみはゆっくりと顔を上げると、まだ赤らんでいるけれど、どこか挑戦的な瞳で彼を真っ直ぐに見据えた。
「……私、ただの『ボロボロにされてるファン』で終わるつもり、ないんだけど」
そう言うと、彼の首筋に回した手に力を込め、逃げられないように自分の方へ引き寄せる。
驚きで少しだけ目を見開いた彼の唇に、自分から、深く、吸い付くようなキスを落とした。
「っ、……ふ……」
不意を突かれた拓人の呼気が、口内へと流れ込んでくる。
いつもなら彼が主導権を握り、 うさみを翻弄するはずのキス。それを、年上の意地と、ほんの少しの「仕返し」を込めて、 うさみが一方的に、執拗に繋ぎ止める。
唇を離した時、二人の距離は、まつ毛が触れ合うほどに近かった。
「……ねえ。今、どっちの心臓が速いか、確かめてみようか?」
まだ少し呆然としている拓人の頬に手を添え、親指で彼の唇をゆっくりとなぞる。
そして、彼がさっき「お姉さん」と言ったのと同じくらい甘く、けれど拒絶を許さないトーンで囁いた。